ラグビーワールドカップ2019 準決勝。
イングランド対ニュージーランド
@横浜国際総合競技場
観客数:68843人
準々決勝でアイルランドを破ったオールブラックスは、地球上に倒せるチームがいないのではないかと感じさせるほどの強さだった。
しかし、その感想はわずか1週間で覆された。
オールブラックス3連覇の野望は、ワールドカップで関わったチームでわずか2敗しかしていないエディー・ジョーンズの伝説の前に潰えた。
オールブラックス試合前の儀式に対し、V字の陣形で迎え撃ったところからエディーの心理戦はスタートしていたのかもしれない。
日本のラグビー選手は「試合の入り方」を結果に対する要員として口にする。
勝てば「うまく試合には入れた」、負ければ「試合の入り方が大事と言っていたのですが、うまくできなかった」と話す。
※公式写真より。
その観点から言えば、イングランドは完璧かそれ以上の「試合の入り方」をした。
開始直後、ラインアウトからボールを展開し、オールブラックスの22ラインを超えると、そのまま#13のツイランギがトライを決めた。
オールブラックスが今大会の1st halfに与えた初めてのトライは、3連覇にストップをかける痛恨のものとなった。
オールブラックスは幾度となく、イングランドの人垣を破ろうとチャレンジしたが、ハンドリングエラーやラインアウトのミスなども多くなり、流れを取り戻すことができなかった。
スティーブ・ハンセンHCは試合後の会見で「ハングリー精神とディシプリンが必要だったが、それが出せなかった。ラインアウトなどのセットピースでリズムを取れなかった」と話し、ハーフタイムに修正を図ったという。
※公式写真より
しかし、後半もなかなかペースは奪えなかった。
一方のイングランドも、前後半にそれぞれ一度ずつTMOでトライが取り消されたほか、後半開始早々のPGを外すなど、試合を決めることはできない。
特に、後半のTMOによるイングランドのトライ取り消しは、テレビカメラがなければ発見することすら困難なレベルだった。
テクノロジーによるサポート、開かない得点差は、イングランドに焦りと脅威を与えても不思議ではなかった。
しかし、エディー・ジョーンズが試合後に「素晴らしい規律を持ってゲームプランを実行してくれた」と話したように、イングランドの集中力は最後まで途切れなかった。
イングランドの素早いディフェンスの波は、オールブラックスのアタックを窒息させた。多くの国の荒波を軽々と乗りこなしてきた得意のオフロードも、この日はかろうじて息継ぎができるほどの効果しか得られなかった。
※公式写真より
敗戦の将、スティーブ・ハンセンは「スポーツで敗戦は往往にして起きるもの、苦しくても結果を受け入れるしかない」とコメント。また、勝ったとき同様、敗れたときにもその人となりが表れるもの、どんなときも常に同じ人物であるべきだとも述べている。
潔く敗戦を受け入れ、残る3位決定戦の準備に入る。
会見の質疑では、ハーフタイムにハングリー精神が必要だと指示したという話を受け、キャプテンのキアラン・リードに対し「ハングリー精神がなかったのか」という旨の質問が投げかけられた。
リードは「細かく見るとよくない面はあったかもしれないが、なんとか食らいつこうと全力は尽くした」と、決してハングリー精神の無さが結果に影響したわけではないと質問を否定した。
このやりとりに対し、ハンセンHCが口を挟み「ハーフタイムに指示はしたが、それはハングリー精神がなかったからではない。オールブラックスにハングリー精神がなければ準決勝までは来ない。歴史や能力を見せるためにワールドカップへきた私たちに対してそうした質問をするのはどうか」と反論する場面もあった。
準決勝敗退という痛みのなかで、伝統の黒いジャージーをまとう誇りを見せた瞬間だった。
エディー・ジョーンズHCは、会見の冒頭にオールブラックスに敬意を表し、自らのチームに対してはボーズウィックコーチの仕事をたたえた。
そして「この試合に向けて2年半準備して来た」と、来るべきワールドカップのオールブラックス戦へ向け体制を整えてきたことを誇った。
まるで2019年のワールドカップ、その準決勝でオールブラックスと対戦することを知っていたような口ぶりだったが、これはエディー流の「たとえ」だろう。
ワールドカップで優勝するため、絶対に負けられない試合が来たとき、最高のプレーができるよう「選手たちに習慣づけることができた」(エディー)ということだ。
イングランドの7番、マンオブザマッチに選ばれたLOのマロ・イトジェにも匹敵する活躍を見せたサム・アンダーヒル。囲み取材でエディーの2年半発言について聞かれ「僕はこの試合に出ることを今週になって知ったから、そこまで準備はしていないね」という旨の回答とともに笑顔を見せた。
選手としては当然の反応。ただ、アンダーヒルもイングランド代表としてトレーニングを積むなかで、どのような状況でも規律を維持してプレーする「習慣」を叩き込まれていたということだろう。
2015年の屈辱を経て、決勝の舞台にのぼることとなったイングランド。
その対戦相手は南アフリカに決まった。
エディー・ジョーンズにとっては、古巣でもある。しかも、ウェブ・エリスカップを共に掲げたこともある国だ。
イングランドが優勝となると、オーストラリア、オールブラックス、南アフリカとワールドカップ優勝経験国すべてに勝利してのものとなり、その栄光にさらなる名誉が加わる。
もちろん、エディー・ジョーンズにすれば自身「ワールドカップに強い」というコーチとしての評価を無二のものとする機会でもある。
決勝戦は11月2日、横浜国際総合競技場で18時にキックオフされる。
(尾)